『自筆証書遺言の特徴・作成方法について』
こんにちは。弁護士の後藤壮一です。
〇自筆証書遺言
前回まで、遺言の1つである「公正証書遺言」について、ご説明しました。(公正証書遺言の特徴はこちら。作成方法はこちら。)
今回は、「自筆証書遺言」の特徴・作成方法について、ご説明いたします。
〇自筆証書遺言の特徴
「自筆証書遺言」とは、遺言者が、遺言の全文・日付・氏名を自書(令和2年の法改正で財産目録については自署要件が緩和されました)し、押印したものを封印して作成する遺言です。
自筆証書遺言の特徴はご自身で全文を自筆することにあります。
公証役場に行かずに、公証人等の関与なく独りで作成できるため、最も簡易にかつ費用が安く作成できるという利点があります。
しかし、目録添付や加除修正などに関する細かいルールがありますので、実は作成時に注意が必要となります。
〇自筆証書遺言作成時の注意点
自筆証書遺言を作成する際に、最も重要な要件が「自筆で書く必要がある」ということです。
近時は、メールやSMS等によってコミュニケーションが行われることがほとんどであり、ビジネスで書面を作成するときもほとんどがパソコンです。年賀状等でメッセージを手書きする際も、長文になりませんよね。
そのため、遺言書全文という長文を自筆することはなかなか大変です。
しかしながら、現行法上、原則として全文を遺言者本人が自筆で記載し、署名押印も必要となります。
例外的に、「添付の財産目録」のみ、代筆してもらったり、パソコンで作成したり、預貯金通帳の写しや不動産全部事項証明書等の資料の添付でも代用できます。
もっとも、これらの場合には、すべてのページに遺言者本人の署名押印が必要となりますので、これを忘れないようにしてください。
また、これらの用いて作成してよい財産目録は遺言書本文に「添付」されている必要があります。つまり、遺言書本文と別の紙に記載されている必要があり、遺言書本文と同じ紙に財産目録を記載する場合には、自筆が必要となります。
本文、財産目録ともに、縦書きか横書きか、紙の大きさや質、ペンの種類等の指定はありません。
ただし、法務局で保管する場合には、以下の指定があります。
①用紙はA4サイズで記載した文字が読みづらくなるような模様や彩色がないものであること。
②片面のみの記載であること。
③最低限、上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートルの余白をそれぞれ確保すること。
④各ページにページ番号を記載すること(③の余白内に記載)。
⑤ホチキス等で綴じないこと。
⑥封印をしないこと。
⑦消えるインクは使用せず、ボールペンや万年筆等消えにくい筆記具を使用すること。
こちらを充たさない場合には、作成しなおしの必要があります。
全文自筆の際に忘れがちなのが、「作成日付」です。複数の遺言書がある場合、作成日付の新しいものが有効となりますので、作成日付は遺言書作成において非常に重要な事項となり、作成年月日の記載のない遺言書は、年月のみ記載して日付のない遺言書も含めて無効となります。
また、押印については、認め印でも大丈夫ですが、印影がきれいに見えないと無効とされる可能性もあります。そのため、押しやすくきれいに印影が現れる印鑑ではっきり押してください。スタンプ印は避けましょう。
加除修正のやり方も決まっていますので、注意が必要です。
・修正したい部分に二重線を引いて、吹き出しを使って新しい文字を書き入れ、署名押印するのと同じ印鑑を押す。
・欄外の部分に、どこ(何ページ目のどの部分)をどのように訂正したのか(「2字削除4字加入」のようにしても大丈夫です)、改めて自筆した上で、署名押印する。
これらの両方が必要となります。
財産目録の加除修正のやり方も同じです。
修正テープや黒塗りは認められていませんので、これらを使用して修正した場合は無効となります。
封印等は要件ではありませんので絶対に必要なものではありません。
しかしながら、改ざん等を防いだり、遺言書自体の劣化を防止するためにも封印を行った方がよいでしょう。
封印を行う際には、それが遺言書であることや家庭裁判所での検認を受けるまで開封してはいけないこと等を記載すれば、誤って開封される可能性は低くなります。
ただし、後述のように法務局で自筆証書遺言を保管してもらう際には、封印されていないことが要件ですので、逆に封印しないよう気を付けてください。
〇まとめ
いかがでしたでしょうか。
令和2年から始まった遺言保管制度が話題に上がっていますが、そちらにばかり気がいって、そもそもの遺言作成時の注意点が見落とされがちです。せっかく作成した遺言が後々無効とされないためにも、遺言作成について是非弁護士にご相談されることをおすすめします。
弁護士 後藤 壮一