『公正証書遺言の特徴』

こんにちは。弁護士の後藤壮一です。

〇「終活」とは
近時では「終活」という言葉もよく耳にしますが、ご存じですか。これは「人生の終わりのための活動」の略語です。すなわち、「人生の最期を迎えるにあたって、残される人々のために様々な準備を行うこと」を意味します。
身の回りの整理、葬儀や墓の準備等、終活には様々なものがありますが、今回はその中でも最も重要な遺言の一部についてご説明します。

〇遺言の種類
日本で行われる一般的な遺言には大きく3種類あります。
それは、「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」です。
・「自筆証書遺言」とは、遺言者が、遺言の全文・日付・氏名を自書(令和2年の法改正で財産目録については自署要件が緩和されました)し、押印したものを封印して作成する遺言です。
・「秘密証書遺言」は、遺言者が記載した遺言本文に自署して押印したものを封印し、公証人及び証人立会いの下で公証役場にて保管してもらう遺言です。
・「公正証書遺言」とは、証人2名の立会いの下、遺言内容を公証人が確認の上で作成し、かつ、原本を公証役場で保管してもらう遺言です。

実は上記3種類以外にも、「危急時遺言」「隔絶地遺言」という特別な方式の遺言がありますが、上記の遺言ができない特殊な状況下でのみ認められるものですので、「終活」としての遺言作成には向かないですね。


〇公正証書遺言の特徴
今回は、これらの中で「公正証書遺言」について、説明いたします。(自筆証書遺言についてはこちら
公正証書遺言の特徴はなんといっても、「遺言の内容や遺言意思を、公証人と証人2名が確認すること」にあります。

どうしてこのような方式が重要なのでしょうか。
それは、「遺言の有効性が争われる可能性が最も低い」からです。

遺言の内容が相続人や関係者全員が納得するものであれば問題はないのですが、多くの遺言書は全員が納得できるものとなりません。関係者のうち一人でも内容に納得しない人がいる場合には、「遺言無効確認請求訴訟」等がなされる可能性があります。
その場合に、「遺言の形式」や「遺言作成時の判断能力」といった遺言の有効性等が争われます。
残された人々の紛争防止のためにせっかく作成したのに、遺言が原因で紛争が生じるのでは本末転倒ですよね。

そこで、公証人や証人2名が立ち会うことで、遺言の内容が間違いなく、遺言時の状況等が問題ないと証明してもらうことができます。また、作成後、原本を公証役場で保管しますので、改ざんのおそれもありません。
特に、公証人は、遺言者の判断能力に問題があると判断した際には、遺言の作成を拒否しまたは診断書等の提出を求めることができます。
こうすることで、遺言内容に納得したくない相続人がいても、遺言無効を主張する根拠がなくなりますので、訴訟になることを回避できます。

また、法務局における遺言書保管制度を利用しない場合の自筆証書遺言や秘密証書遺言では、遺言書の開封には家庭裁判所による検認が必須となります。そのため、相続人は遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、遺言書の検認の申し立てを行い、家庭裁判所の指定する期日に出頭した上で検認してもらい、検認済み証明書の申請等をしなければなりません。
これに対して、公正証書遺言では、公証人が遺言書を作成することからそのような手続きは不要となります。

〇公正証書遺言のデメリット
このように、とてもメリットの多い公正証書遺言ですが、自筆証書遺言等に比べて「費用がかかる」「作成に手間がかかる」というデメリットもあります。

しかしながら、遺言無効確認訴訟等と比べると費用・手間ともにはるかに小さいものです。

自身の死後に遺族の紛争を防止する、という終活や遺言の目的から考えると、他の遺言方式で死後に遺言無効確認訴訟等で遺族が多大な費用や手間がかかるよりも、自身の生存中により小さい費用と手間で公正証書遺言を作成する方がよい場合が多いと思います。

〇まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、終活の一手段として遺言のうち「公正証書遺言」について概要をご説明いたしました。次回以降では、公正証書遺言の作成方法及び知らせ方・調査方法についてご説明する予定です。

遺言の作成は個人でも可能ですし、ご自身の意思を伝えることも可能ですが、作成方法が誤っていたり、内容が法律上無効になる可能性がある、そもそも遺言書を見つけてもらえない、といった可能性もあります。残された遺族の紛争をできるだけ確実に予防するためにも、遺言作成について是非弁護士にご相談されることをおすすめします。

弁護士 後藤 壮一

2023年08月01日