『特別方式遺言について』

こんにちは。弁護士の後藤壮一です。

〇はじめに
以前のコラムで、日本で認められている遺言には普通に生活するうえで作成する「普通方式遺言」と特殊な状況下でのみ認められる「特別方式遺言」の2種類があることを説明いたしました。(遺言の種類についてはこちら。)

今回は「特別方式遺言」を作成する要件等についてご説明します。

〇特別方式遺言の種類
「特別方式遺言」には、大きく2つに分けて「危急時遺言」「隔絶地遺言」があり、それぞれ、船舶等乗船中に作成するか、それ以外の状況で作成するか、でさらに2つに分かれます。

結果として、「特別方式遺言」には、「一般危急時遺言」「難船危急時遺言」「一般隔絶地遺言」「船舶隔絶地遺言」の4種類があることになります。


〇危急時遺言
危急時遺言には、「一般危急時遺言」「難船危急時遺言」があります。

「一般危急時遺言」は、病気やケガ、その他の理由で死亡の危急に迫った人が利用できる遺言です。
証人3名の立会いの下で、遺言内容を証人の1名に口述します。当該証人が筆記したうえで遺言者本人と他の証人2名に読み聞かせを行います。証人全員が、筆記の正確なことを確認した後、これに署名押印して作成します。
一般危急時遺言は、作成後20日以内に、家庭裁判所で確認手続きを受けて初めて有効となります。20日以内の確認手続きがない場合は、その遺言は無効となります。

「難船危急時遺言」は、船や飛行機に乗っている際遭難などの危難に遭い、死亡の危機が迫っている人が利用できる遺言です。
証人2名の立会いの下で、遺言内容を証人の1名に口述します。当該証人が筆記したうえで遺言者本人と他の証人に読み聞かせを行います。証人全員が、筆記の正確なことを承認した後、これに署名押印して作成します。
証人は、当該遭難が止んだ後で記憶に基づいて筆記し、署名押印することも認められています。
難船危急時遺言も家庭裁判所での確認手続きが必要ですが、一般危急時遺言と異なり期限は設定されていません。もっとも、当該遭難が止んだ後、遅滞なく確認手続きを申し立てる必要があります。

〇隔絶地遺言
「隔絶地遺言」には、「一般隔絶地遺言」「船舶隔絶地遺言」があります。

「一般隔絶地遺言」は、伝染病等なんらかの行政処分によって交通を断たれた場所にいる場合に認められる遺言です。
警察官1名と証人1名の立会いの下、遺言者本人が遺言書を作成し、警察官と証人の署名押印をもって完成されます。危急時遺言と異なり代筆はできません。
本人が作成しているため、家庭裁判所での確認手続きは不要です。

「船舶隔絶地遺言」は、船舶の中にいる人が利用できる遺言です。
船長もしくは事務員1名と証人2名以上の立会いの下、遺言者本人が遺言書を作成し、遺言者と立会人全員の署名押印が必要です。
本人が作成しているため家庭裁判所での確認手続きは不要ですが、遺言者が普通方式遺言を作成することができるようになってから6か月間生存したとき、船舶隔絶地遺言は効力を失います。

〇まとめ
いかがでしたでしょうか。
思いがけず死の危機に直面した場合でも自身の最期の意思を残す方法がある、ということは覚えていても損はないかもしれません。
もっとも、そのような状況下で作成するよりも、事前に財産や相続人の調査を行い、遺言内容をじっくり考えたうえで作成する遺言の方が安心ですよね。(公正証書遺言の作成方法についてはこちら。自筆証書遺言の作成方法についてはこちら。)

弁護士 後藤 壮一

2023年08月04日